コマツの生産において、協力企業からの調達が当社製造原価に占める比率は高く、建設機械の代表的機種である中型油圧ショベルでは90%近くにも達しています。従って、事業活動の安定的な継続のためには、サプライチェーンにおけるリスクの早期把握とその対応が不可欠です。サプライチェーンにおけるリスクは、個々の協力企業の経営・SLQDCの状況、自然災害やパンデミック、国際的な貿易摩擦や輸出入規制など、その内容が多岐に渡っています。コマツでは特に重要なサプライヤに対し、定期的なリスクアセスメントを通じてリスクの見える化を行い、それらリスクの低減に向けた活動に取り組んでいます。
日本においては、みどり会企業の負荷状況を月次でモニターし、各社経営への影響を注視し、必要な支援を実施しています。2024年より時間外労働の上限規制が運送業界へも適用開始となり、全国的な輸送能力不足の発生が懸念されます。コマツは2020年に、取引先や物流事業者との相互理解・協力のもと物流改善に取り組む自主行動宣言を表明し、国土交通省の推進する「ホワイト物流」推進運動へ参加しました。モーダルシフト活用による長距離輸送の削減や荷卸場レイアウトの最適化等によるドライバー労働時間の削減を目指し、適正な運賃設定に努めるなど、持続可能な物流の実現に向け継続して取り組んでいます。
新規の協力企業との取引開始の可否判断に際しては、公開情報、先方へのヒアリング、事業所への訪問監査等の手段を通じ、新規取引先評価チェックシートを用いて、SLQDCの基本項目のみならずESGの観点からも対象企業の事前評価を行います。
前述の「CSR調達ガイドライン」の遵守、「グリーン調達ガイドライン」への理解も評価項目に含み、ESG関連に項目別では最大の配点ウエイトを置いています。ESGパフォーマンスに優れる協力企業から優先して調達を開始するようにしています。
なお、ESG分野の評価が50%未満の場合は、取引は開始しません。
新規取引先評価の項目別配点ウェイト
分野 | 評価項目 | 配点ウェイト(%) |
---|---|---|
ESG | 労働安全衛生、環境、コンプライアンス、 輸出管理、情報セキュリティ | 27% |
経営全般 |
経営方針、組織、財務体質、社員教育等 |
24% |
生産能力 | 生産計画~進捗管理~納期管理の体制、調達能力並び外注管理等 | 20% |
技術優位性 | 開発技術力、コスト、設備保全能力等 | 16% |
品質 |
保証体制、現場管理、初物管理等 |
12% |
合計 | 100% |
新規および既存の協力企業に対し、コンプライアンスの観点から、輸出管理上の要注意顧客・規制対象国・規制品目及び技術に該当しないかどうか、また、反社会的勢力に該当または関連しないかどうかについて、外部の専門データベースによる定期的なリスク調査を実施しています。財務面を主体とする経営状況については、公開情報や四半期毎のアンケート調査を通じて、さらに新規並びに既存の懸念企業に対しては民間信用調査会社等も利用して確認を実施しています。CSRやESGの観点については、労働衛生及び環境法令、独禁法及び下請法、出入国管理法等に対する違反の有無を官公庁や関連する自治体のウェブサイト等にて定期的に確認しています。建設機械業界にとっての原材料調達上のリスク対応として、紛争鉱物に関する原産国調査も継続しています。
取引先に対するリスクアセスメントのプロセス
サプライヤに対する主なリスクアセスメントと実施状況
分野 | No. | 目的 | 内容 | 確認方法 | 実施 頻度 | 対象(○実施対象) | 2024年度※1の 実施状況 | |||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
重要なサプライヤ(一次サプライヤのみ) | その他全ての一次サプライヤ | 実施社数 | 個別フォロー実施社数 | 是正対応実施済み・対応予定の社数 | ||||||||||
レベル-1 | レベル-2 | レベル-3 | 国内 | 海外 | ||||||||||
コンプライアンス | 1 | 輸出管理上の要注意顧客への該非判定 | 国内外の行政機関が公表する要注意顧客リストに該当・関連するかどうかの確認 | CISTECデータベースでのChaser検索 | 1回/年 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 2,148 | 0 | - | |
2 | 反社会的勢力への該非判定 | 反社会的勢力に該当・関連するかどうかの確認 | 公表情報、専門機関を通じての確認 | 2回/年 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 2,207 | 0 | - | |||
経営 | 3 | 経営状況の確認 | 信用調査 | 経営・財務状況の確認 | 公開財務情報や民間信用調査会社のレポート | 都度 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 2,207 | 0 | - |
4 | 経営状況定期調査 | 損益、雇用、操業度、投資等経営全般に関する調査 | アンケート調査 | 四半期毎 | 〇 | 〇 | ||||||||
ESG | 5 | 労働、環境、独禁法・下請法・出入国管理法等の法令違反の有無確認 | 労働基準局、各自治体、公取委、出入国管理局等の公表違反事例の検索 | 月次 | 〇 日本のみ |
〇 日本のみ |
〇 日本のみ |
〇 | 2,207 | 0 | - | |||
BCP | 6 | 事業所立地による自然災害(浸水、津波、土砂災害など)リスクの有無確認 | 国交省ハザードマップ、Aqueduct等での確認 | 1回/3年 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 1,326 日本のみ |
0 | - |
サプライチェーンにおいて想定されるリスクに対応するために、コマツは前項のアセスメントに加え、当社にとっての協力企業の重要度に応じて、企業活動の個別分野ごとにリスクアセスメント・監査(当社有識者による)を実施しています。これらのリスクアセスメント・監査は、デスクトップ調査及びオンサイト調査を通じて実施され、その内容、対象範囲及び2024年度における実施状況は下表の通りです。
これらのリスクアセスメント・監査を通じて判明した顕在的・潜在的ESGリスクに関しては、実地監査での検証を踏まえて協力企業へ報告し、是正計画を策定いただき、相当期間内での適切な対策の実行を要請し、進捗をモニターします。対象企業単独での是正対応が困難と判断される場合には、コマツは協力企業からの要請に応じて、当社の有識者の協力も得て、改善指導・支援を提供し、2024年度は28社の支援を実施いたしました。2024年度については、リスクアセスメント・監査、是正措置を通じ、重大なマイナスの影響があり、取引を解除した協力企業はありませんでした。
これらの一連のプロセスの実施状況と結果は、特に重要とみなされるリスクに関してはその内容と是正対策の進捗も合わせて、調達本部から月報にて当社経営陣へ定期的に報告しています。
そして、これらアセスメント・監査の結果を実際の購買活動方針へフィードバックすることで、サプライヤの行動規範と購買活動との整合性を維持するよう努めています。
また、これら個別の是正活動と並行して、従業員に対する各種教育研修プログラムやe-learningの公開・提供等を通じて、CSR活動における協力企業各社の全般的な理解力や対応力の向上に向けた支援も実施しています。
2024年度は従業員教育として人権教育を約500人に実施しました。
環境マネジメントや安全衛生活動に関しては、各社の推進体制のレベルアップを目的に、外部第三者機関による公的認証の取得も推奨しています。
協力企業に対する主な個別リスクアセスメント・監査
分野 | No. | 内容 | 確認方法 | 実施 頻度 | 対象(○実施対象) | 2024年度の実施状況 | |||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
重要なサプライヤ (一次サプライヤのみ) |
その他全ての一次サプライヤ | 実施社数 | 是正計画策定社数 | 是正対応実施済み | |||||||||
レベル-1 | レベル-2 | レベル-3 | 国内 | 海外 | |||||||||
全般 | 1 | みどり会活動を通じた双方向のコミュニケーション強化 | ①定例会合での企業トップ間の交流 | 会合 | 2回/年 | 〇 | 〇 | 〇 | 334 | - | - | ||
②部会を通じた改善活動(生産性向上、省エネ等)の推進 | 工場訪問、活動報告会等 | 通年 | 219 | - | - | ||||||||
経営全般,QCD | 2 | 企業評価 | 年次のSLQDC、ESG実績評価 | 実績KPI | 1回/年 | 〇 | 〇 | 〇 | 334 | 0 | 0 | ||
上記及び企業経営に関する要因評価 | 実績KPI、経営者ヒアリング | 〇 | 〇 | 98 | 0 | 0 | |||||||
3 | 品質監査・熱処理監査(保安部品、熱処理工程有する企業のみ) | 品質保証体制及び工程管理状況の確認 | 書面調査、実地監査、証憑確認等 | 1回/年(指定企業) | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 熱処理監査 337 |
0 | 0 | |
4 | 月次操業度チェック | 月次毎の操業度予測とその対応方法の確認 | 書面調査、経営者ヒアリング | 月次 | 〇 日本 |
〇 日本 |
165+α※1 | 0 | 0 | ||||
コンプライアンス、ESG | 5 | コンプライアンスリスク(CR)監査 | 経理財務、労務管理、調達(下請法)、情報セキュリティー分野での潜在リスク有無の確認 | 書面調査、実地監査、証憑確認等 | 1回/2年 | 〇 | 4 | 2 | 2 | ||||
6 | 海外労働者雇用状況調査 | 海外労働者(実習生含む)の雇用に関する法令順守状況調査 | アンケート調査及びヒアリング | 1回/年 | 〇 | 〇 | - | - | - | ||||
7 | 労働安全衛生レベル評価(法令遵守チェック含む) | 労働安全衛生活動を推進する組織体制、労働関連法令の順守状況の確認、活動内容の評価 | 安全パトロール等の実地監査、経営者及び安全責任者へのヒアリング等 | 2回/年 | 〇 | 〇 | 98 | 15 | 15 | ||||
8 | 環境マネジメント(EMS)取得促進・環境教育 | 環境マネジメントに関する第三者認証取得の義務付け | 書面調査、実地監査、経営者及び環境責任者へのヒアリング等 | 1回/年 | 〇 | 〇 | 〇 EMSのみ |
98 | 0 | 0 | |||
最新の環境関連法令の教育実施 | オンライン教育 | 1回/年 | 〇 | 〇 | 98 | 4 | 4 | ||||||
9 | CSR SAQアンケート調査 | チェックシートによるCSR全般に関する自己診断 | アンケート調査及びヒアリング | 1回/3年 | 〇 | 〇 | 〇 | - | - | - | |||
10 | 人権リスク調査 | チェックシートによる人権、労働安全衛生に特化した自己診断 | 1回/2年 | 〇 | 〇 | 〇 | - | - | - |
協力企業に対する是正活動上の支援事例
分野 | No. | 名称 | 内容 |
---|---|---|---|
経営 | 1 | 資金繰り支援 | 期日前支払、現金払い化など |
余剰在庫品の買い上げ、先行発注・検収など | |||
生産設備買い上げ、貸与など | |||
2 | 人的支援 | 管理者・技術指導者の出向派遣、当社での研修受入れなど | |
3 | 教育研修プログラム等の提供 | 管理者向け、一般従業員向け |
コマツは、2017年3月からサプライヤ相談窓口を設置し、コマツグループの調達活動におけるコンプライアンス違反行為やその疑念のある行為に関する通報を受け付けています。社内外に設置した専用窓口を通じて通報いただいた案件に対しては、中立的な立場の部門にて事実関係の確認、調査を実施し、速やかな是正措置につなげています。なお、通報いただいた協力企業に対して、通報したことを理由として、不利益な取り扱いをしないことを宣言しています。
サプライヤ相談窓口への通報実績
近年多発、多様化する自然災害への対応として、2012年より日本国内を対象に、地震・津波・台風等の災害発生時に協力企業での被災状況と当社サプライチェーンへの影響を迅速に把握することを目的に、気象庁の災害情報と連動したサプライチェーン管理システムの運用を開始しました。このシステムでは、2次以降のサプライヤを含む7,662社 20,000強の事業拠点の立地と生産内容をデータベース化し、災害により発生が予測される供給障害リスクを見える化することで、的を絞った迅速な対応を可能としています。2024年1月1日に発生した能登半島地震においても、当システムを通じて被災リスクありと予想される協力企業に対し被災状況の確認を行い、支援要請のあった企業には当社から、建屋設備の保全担当者を派遣して迅速な災害復旧を支援いたしました。
2019年の台風19号による河川氾濫では、複数の協力企業が被災し、サプライチェーンに大きな影響が発生しました。この反省から、コマツのサプライチェーン管理システムと、国土交通省等が公表しているハザードマップとの連携を図り、協力企業の潜在的な立地リスクの事前把握に努めました。立地リスクを有する協力企業に対しては、溶接・加工プログラム及び重要な生産データ(BOM、ツーリングリスト、加工図、治工具図面等)のバックアップ保管を要請するとともに、各社のBCP対応状況に応じ当社側でも安全在庫の積み増しや代替発注先の確保等の対策を進めました。
2020年以降、広範な産業分野での半導体不足、新型コロナ感染拡大に伴うロックダウン、米中デカップリングや国際物流の混乱等によるグローバルサプライチェーンの寸断が深刻化しました。さらに、自動車や家電におけるモデルチェンジ期間の短縮化もあり、建機で流用している部品、特に電気・電子部品の突然の生産中止リスクが増加しています。これらの新たなリスクに対しては、流通段階を含めた在庫の管理強化、安定して入手可能な汎用半導体・部品への置換促進、重要部品に対する先行発注・内示範囲の拡大、在庫の積み増し、代替品の採用等により対応を図っています。
また2023年にはアジア調達センタを増強し、ASEAN加盟国・南アジア地区での現地調達化をさらに拡大するとともに、クロスソーシングにおいて特定地域からの調達に過度に依存するリスクを低減するために、グローバルでのマルチソース化(複数地域のサプライヤへの並行発注)も進めています。
サプライチェーンにおける情報セキュリティ対策も喫緊の課題です。コマツは、2021年に協力企業向けに情報セキュリティガイドラインを制定し、当社がサプライヤへ求める基準を明確にするとともに、国内みどり会155社を対象にe-learning形式での教育を提供しました。同時に自己診断チェックシートを用いた各社におけるセキュリティ調査を行い、課題が認められた取引先には個別のフォローアップを実施しています。2024年からは国内みどり会外注企業にふるまい検知(EDR)の導入を推奨、促進し、サプライチェーン全体でのセキュリティ対策強化を行っています。
情報セキュリティ自己診断実施状況
2022年度 | 2023年度 | 2024年度 | |
---|---|---|---|
自主チェックシート実施社数 | 156 | 156 | 155 |
コマツのCSR調達ガイドラインに対する協力企業側の認知を高めるために、みどり会会合や各事業所で開催する月次業務連絡会等の機会を活用して、コンプライアンスやBCPなどに関する啓発活動を実施しています。また、みどり会企業向けに発行する「CSR通信」では、コマツグループ社員向けの「みんなのコンプライアンス」に掲載したCSR関連記事や国内外の関連法規制の変更に関する情報などを紹介しています。
2021年度からは、サプライチェーンへのCSRのさらなる浸透を図るため、コマツも加盟するグローバル・コンパクト・ネットワーク・ジャパン(GCNJ)が公表している標準アンケートツールを使用して、CSR活動に関するSAQアンケート調査を日本のみどり会156社を対象に実施し、153社から回答を得ました。当社のCSR調達ガイドラインについては、回答企業の95%から認知されていることを確認しました。また2022年度には、国内外みどり会企業計292社を対象に人権デューディリジェンスの一環として、人権リスク調査を実施しました。「国連ビジネスと人権に関する指導原則」をはじめとする国際規範に基づき、「人権マネジメント」「労働安全衛生」「労働条件」など計11のカテゴリーにおける各社の人権の取り組み状況に関し専用ウェブサイト上にて回答を収集しました。本調査では客観性を確保するため、設問の作成から結果分析までを外部有識者にて監修・実施いただきました。調査により明らかになった課題点と対応については各国の言語に翻訳したレポートを企業ごとに発行し、個別にフィードバックを行いました。
2023年度は国内みどり会企業5社を訪問し、外部有識者も交えて協力企業向けの人権ガイドライン策定に向けて、インタビューを実施し、意見交換を行いました。各社意見を参考に、ガイドラインへの織込みを図っていきます。
2024年度は外部専門家のアドバイスの下で欧州を中心とした情報開示、デューデリジェンス対応に向けた準備活動を実施しました。
質問項目
No | テーマ | 質問項目 |
---|---|---|
1 | 人権マネジメント | 人権へのコミットメント、人権デューデリジェンスの仕組みの構築、苦情処理メカニズム |
2 | 労働環境と人権 | 差別や非人道的な処遇の禁止、児童労働の禁止および若年労働者への配慮、強制的な労働の禁止 雇用及び雇用関係、個人情報保護、労働時間の適正管理、福利厚生、賃金、労働者の団結権の尊重 |
3 | 労働安全衛生 | 労働安全衛生方針・マネジメント、職場の安全対策と環境改善、労働者の健康リスク対策 |
4 | コミュニティへの影響 | コミュニティへの影響 |